Kep1erの物語その3

2022年6月2日

スターライト

地球とはいったいどのような星なのだろう。

古き良きケプラー星かつてそうであったように、まばゆいラベンダー色に包まれる地球は、きっと平和で美しい音色が響く理想郷に違いない。

そのような想像を頭の中で何度も繰り返しながら、チェヒョンは地球を見失わないように観測を続けていた。超音波望遠鏡は、一般人にはただの望遠鏡でしかない。

K家でもこの望遠鏡を操れるのは、チェヒョンとチェヒョンの母の二人だけである。

幼いころから身体が弱かったために、本家を離れてダヨンの家に預けられ、二人は姉妹のように育てられた。

快活で行動的なダヨンとは対照的に美術や読書などを好む内向的な性格ではあったが、ソニックウェーブの鍛錬は怠らず、K家に伝わる遥か彼方の出来事を見通せる千里眼の能力を身につけた。

この力は並大抵の努力では開花しない。

何年にもわたって訓練に訓練を重ねなければ習得できないスキルだ。

チェヒョンは、能力の習得のために若い女の子であれば夢中になるような趣味や遊びをすべて犠牲にしてきた。

そして今こそ、その習得した力を発揮する最大の機会であることを自覚していた。

「これはどういうこと?」

地球を包み込むラベンダーカラーの発生源を探していたチェヒョンは大きく瞳を見開いた。

「光の源が複数存在している!」

地球を包むラベンダー色は、その色の発生源がいくつも存在していた。

そのことは地球に複数の音楽が存在していることを証明している。

「凄い、こんなに多くの音が生まれているなんて」

チェヒョンが驚くのも無理はない。ケプラー星では戦争が勃発する以前から自由に音楽を演奏したり歌うことが出来なくなっていた。

これは、ソニックウェーブの様な音の力を有していない為政者たちが、力あるケプラー人を抑え込むための策略として、決まった音階や、決まった歌詞でしか歌えない世の中に作り変えてしまっていたからだ。

どこの世界にでも、悪い権力者というものは存在する。

そして、その多くが無能であり、自らを誇示するために財力や暴力にのみ注力し、人として最も大切な平和の心を養うことや他者を慈しむことをあざ笑い、正しい人間を恐れて抑圧する。

しかし、多くのケプラー人が権力の横暴に無条件降伏する中で、チェヒョンたちの様な少数派のケプラー人は、人知れず、自らを鍛え続け、真剣に平和を願ってきたのだ。

チェヒョンは地球上に点在するラベンダー色の発生源を数え始めた。

「1つ、2つ、3つ・・・かなり多いわね」

「10、20、30・・・まだまだあるわ」

「88、89・・・90・・ちょうど90だわ!」

光の点は全部で90だったそれぞれの光源は力強くエネルギーに満ち溢れている。

「凄い、こんなにエネルギーが溢れているなんて!」

チェヒョンは感動のあまりそれ以上の言葉が見つからなかった。

その時、ドアの外に慌てたような従者の声が響いた。

「チェヒョン様!大変です!」

「何?どうしたの」

「ダヨン様が怪我をされて」

「ええっ!」

すぐさま表に飛び出そうとするチェヒョンに従者が続けた

「お連れのお友達も大けがをされているようで・・」

チェヒョンは従者に医療チームのスタンバイを要請し、すぐさまダヨンを迎えに走った。

プリズン

イェソはろくな食べ物も与えられないまま、牢獄での生活を続けていた。

生きる希望を失いかけた彼女のソニックウェーブは、今や風前の灯火だ。

優しい姉、マシロのことを思い浮かべて涙することしかできない日々の中、歌を歌うことも禁じられているため、もう何日も声すら発していない。

独立解放戦線は、イェソから愛する姉だけではなく、声も希望も奪ってしまった。

イェソは幼いころから自然に声の力を操ることが出来た。

誰かから教わるわけでもなく、姉のマシロと遊んでいるうちにいつの間にか能力が発現し、アニメのキャラクターが印刷された鞄を背負いながら学校に通っていた頃も、鼻歌を歌いながら自然と能力を使いこなせていた。

心と声帯さえ万全ならば、牢獄の扉を開けることも鉄格子を破壊することも造作もないことだが、今の彼女には生きる気力そのものが欠けていた。

かつて、古のケプラー人は生まれながらに様々な声の力を持っており、その特性を生かした職業に就き、大きな争いも無く平和に暮らしてきた。

人々は歌を歌いながら畑を耕し、魚を釣り、家畜を育てた。

市場には音楽が鳴り響きいつも賑わっており、争いとは無縁な理想的な平和社会で、人々に優れた能力があるために、機械文明も環境保全や真理探究のためだけに発達したので、空気汚染や水質汚染などは全く起こらなかった。

ところが、ちょっとした差別による亀裂がケプラー人を破滅への道に誘うことになる。

文明が進むにつれ、ケプラー人の中に、声の能力が発現しないケースが出始めたのである。

この能力が発現しなかった人々は、能力がある人に比べ生きていくのが大変で、仕事も限られており自由に選ぶことが出来なかったため、多くが貧しく暮らしていくこと自体が困難だった。

精神的に抑圧されていた未能力者の一部の人々の中には、次第に差別意識を増長させ過激な考え方持つようになるものも現れ、それまで行われてこなかった略奪や破壊行為などの犯罪が行われるようになってしまった。

長年保たれてきた平和な社会は、徐々に争いが蔓延する社会に変貌し、能力者たちは未能力者の暴力に次第に屈していった。

大きな戦いを乗り越え何とかケプラー星は、5つの勢力がようやく均衡を保ってきたが、今は、贅を尽くし民衆を見下す為政者たちや、改革のために民衆の命を軽視する似非革命組織によって、未曽有の大戦乱となっている。

多くの罪なき人々が殺害され、暴君たちは人里離れた安息地で、酒を飲み宴を楽しみ、ケプラー星やそこに住む人々や築き上げた文明などよりも、目の前の贅を満喫しているのだ。

オペレーション

可愛い妹を簡単に許すことはできないと思っていたカイだったが、4人の熱意に頑なな感情は、少しづつ溶け始めていた。

特にケプラー星の危機はすでに認識している事実であり、ケプラー人同士の戦争も日々激しさを増し、被害が拡大している。

「戦争のことはあなたたち軍人さんに任せるしかありません」

ユジンがそう言いながら話し続ける

「しかし、ケプラー星を救うことは私たちにしかできません」

4人がじっとカイを見つめる。

彼はくるりと向きを変えながら答えた

「僕は、これから緊急の打ち合わせがあるんだ」

そして、突然出口の方に向かって歩き始めて独り言を続けた。

「そういえば飛行船の暗証番号はOが3つだったかな」

「ありがとうお兄ちゃん」

ヒエの言葉は声には出さなかったが、ソニックウェーブで兄の心に届いた。

カイは右手を軽く振ってその場を後にした。

4人は音速飛行船が停泊しているカタパルトに急いだ。

H国の飛行船団の規模は強大で、沢山の飛行船が礼儀正しく並んでいる。

「どの飛行船に乗ればいいの」

不安そうなユジンを振り向いてヒエが答えた。

「兄さんの、H国飛行船団隊長の特別機がこの先にあるわ」

一行は数百メートル先に停泊している黄金の飛行船をその目に確認した。

「急ごう」重い機械を背負いながらヨンウンは走り出した。

追いかけるユジンにK国のチェヒョンから連絡が届く。

「お姉さん!ダヨンが怪我をして!」

「えっ、何があったの!」

驚いて立ち止まったユジンはヘッドセットを右手で押さえながら聞き返した

「ジッ、ジジッー」

ソニックウェーブで通信するタイプのヘッドセットは距離が離れてしまうと、タイムラグが発生する。

K国とH国は、大きな海を隔てて遠く離れているため、通信はかなり難しい。

「大丈夫!私は大丈夫!」

ダヨンが通信に加わった。

「ジッ、ジジッー」

「ああ、ダヨン!良かった!」

ユジンの声と共に一行も安堵した。

「私のことなんかより、マシロが・・・・J国のマシロが生きていたんだ!」

ダヨンの声は興奮のあまり、語尾が震えてしまっていた。

予想もしなかった突然の報告に、ユジンは溢れる涙を抑えきれず、両手で顔を覆って泣いた。

マシロが暴君アンチに勇敢に立ち向かい、命を落としたというニュースは、ケプラー星の誰もが知る事件で、権力の暴挙に対し、平和の心を決して諦めなかったマシロこそ、真の平和の象徴だと言う者までいたほどだった。

シャオティンとヒエは喜びの涙を流しながら抱き合い、両手で飛行船に機械を取り付けていたヨンウンは、頬を伝わる涙を拭うこともできないでいた。

「まだ報告があるの」

ダヨンは続けてヒカルの存在と、その優れた能力をユジンに説明した。

「本当にあなたと同じくらいの能力なの?」

K国でトップレベルのダヨンと同等の能力というのは、急には信じられない様子のユジンにダヨンは話し続けた

「パワーはシャオティン姉さんレベルだよ」

隣で聴いていたシャオティンも大きな目をさらに丸くして驚いた。

一行は希望に胸を膨らませながら飛行船に搭乗し、K国に向けて出発した。

to be continued