懐かしの歌声と心温まる世代間交流
以前、都民住宅に住んでいた頃、同じ階のおばあさんが氷川きよしさんの熱烈なファンだったことを思い出します。ライブにも足を運ぶほどの熱の入れようで、氷川きよしさんの話になると目をキラキラさせる姿が今でも印象に残っています。
あれから随分と時が流れ、現在は地域の住区センターで青壮年部の役員を務めています。毎年恒例の「歌声喫茶」的なイベントがあるのですが、これが私にとっては特別なもの。バンド練習と重ならない限り、必ず参加したいと思うほど楽しみにしています。
実は30代の頃から、区の施設で開催される歌のイベントに、おじいさんおばあさんに混じって参加し、昭和の名曲を熱唱していました。参加者のほとんどがおばあさんで、若い世代は私だけ。当然ですよね、元々は高齢者向けのイベントなのですから。
私の音楽愛は幼少期に遡ります。年長の頃、3〜4枚組の童謡LPレコードを買ってもらい、擦り切れるほど聴き込んだものです。「ピンポンパン」「ポンキッキ」「お母さんといっしょ」「みんなのうた」「ロンパールーム」など子供向け番組の影響もあったでしょうか。流行りの歌よりも童謡が好きだった私は、歌うこと自体が大好きな子供でした。
役員として今回のイベントに携わる立場になった私の仕事は、会場設営や受付・誘導が主な役割です。会場にはウクレレを奏でる歌の先生、芸大出身の若いソプラノ歌手の先生、電子ピアノの伴奏の先生もいらっしゃって、とても温かな雰囲気にでした。
雨の中にもかかわらず、60人ほどのおばあさん方(90歳を超える方も!)がほぼ時間通りに集まり、配られた歌本を眺めたり、隣席の方と歓談したりしています。各テーブルに置かれたメモ用紙にリクエスト曲を書くのですが、中には歌本に載っていない演歌をリクエストする人もいましたが「三年目の浮気はこの本に載ってないのよ、ごめんね」と会場が笑いに包まれました。
いざ開演。先生が歌本から曲を選び、会場全体で大合唱が始まります。カラオケと違い、全員で一緒に歌うところに「歌声喫茶」の醍醐味があります。役員としてリクエストメモを集める係でしたが、待機中はおばあさん方と一緒に声を合わせました。あまり目立たないよう控えめに歌いましたが、みんなで歌うのは本当に楽しいです。
数曲経った頃、リクエストに「神田川」が挙がり、先生から「男性に歌ってほしい」との声が。誰も手を挙げない中、「あなたボーカルをやっているって言ってたでしょう」と指名されてしまい、ステージへ。先生が冗談交じりに「特別ゲスト」と紹介するので緊張感が高まりました。
「神田川」は聴いたことはあっても歌ったことはなく、同じようなメロディが繰り返される中でサビへの入りが難しい曲です。しかし子供の頃に聴いた記憶があったのか、なんとか歌い切ることができました。途中から余裕も出てきて、会場のおばあさん方に視線を送りながら歌っていると、皆さん優しく見守ってくださっていました。
ふと、あの氷川きよしさんのファンだったおばあさんを思い出し、「氷川さんもこんな温かい空気の中で歌っているのだろうか」と考えました。歌い終わると、思いがけず拍手をいただき、「良かったよ」「いい声だね」「素敵でした」と声をかけていただいて、心が温かくなりました。
おばあさん方は夕方まで歌を楽しみ、元気に帰っていかれました。世代を超えて歌で繋がる素敵な時間—来年もまた会いましょう。