SONIC Warriors 第5話
GOD OF BEAST
ヨンウンは、驚き顔の二人に一言も発さず、音速飛行船の外へと駆け出した。
普段のおとなしく勉強熱心そうな姿は全く見えない。
その雰囲気は怖いくらいである。
ミサイルが跳んでくる方向に勢い良く飛び出したヨンウンは生身で攻撃を阻止するつもりなのだろうか。
「ヨンウン!」攻撃を防ぐことで精いっぱいのユジンが叫ぶ。
その刹那、ヨンウンのものすごいシャウトが響きわたる。
「スーパーソニック!」
「獣神変化!」
なんと、ヨンウンの身体がみるみる大きくなり巨大な白い狐の姿に変化した。
全身から濃い紫色のオーラがまるでプロミネンスのように吹き出し、瞳はまさしくヨンウンその人ではあるが、その鋭い眼光は、行く手を阻むものには容赦はしないと言っているような、独特な狂気の決意を感じる。
「ユジン姉さん!そこから離れて!」
巨大な白い狐の姿のヨンウンは、大きな口を今までユジンがいた方向に向けた。
「みんな、耳を塞いで!」そう言い終わるや否や、狐の獣神と化したヨンウンの全身は紫色に包まれ、声帯に集まった巨大な紫炎の玉が、大きな口から天空に轟きわたる咆哮と共に発射された。
ビリビリと空気を引き裂きながら一直線に伸びた紫炎の玉は次々と独立解放戦線のミサイルを消滅させていく。
ヨンウンの能力を目の当たりにした3人は、驚きのあまり言葉を失っている。
ヨンウンが放った紫炎はそのまま地上の防空設備もろとも全滅させてしまった。
それを見届けたヨンウンの目は、いつもの可愛い眼差しに戻っていく。
そして、大きな白い狐の身体は次第に透明になっていき、いつものヨンウンが現れた。
「いけない!!」
ユジンはバルキリーの手綱を引いて真っ逆さまに落下して行くヨンウンの元に飛んで行く。
力尽きたヨンウンは完全に気を失ってしまった。
「お姉さん!お願い!!」
シャオティンに向かってヒエが告げた。
ヒエの能力を知っているシャオティンは、飛行船を大急ぎで旋回させ、船首をヨンウンとユジンに向けて、操舵を放して、ヒエの元に駆け寄り、その肩に両手を添えた。
たちまち、ヒエのピンク色の髪は、みるみる銀色の輝きを放ちはじめた。
シャオティンのソニックウェーブ増幅能力がパワーを一気に上昇させているのがわかる。
ヒエは、祈るような姿勢で静かにつぶやいた。
「スーパーソニック!」
ヒエとシャオティンの周りに紫色の輝きが満ちてくる。
凍てつく冬の大地を溶かしてゆくような、春の日差しに似た暖かな光が、ヒエの周りから一気に噴き出した。
光の正体は輝く無数の羽根たちだ。
その無数の羽根たちは、急速に渦をなして、ヨンウンとユジンを包み込んだ。
二人は、暖かな羽毛に包まれて落下を免れることができた。
ヒエの能力は攻撃的なものではなく、仲間を救済する平和の天使のような能力だ。
ミサイルの攻撃などを防ぐことはできないけれど、落下する二人を救済することはできる。
そして、羽根に包まれた二人は、僅かながら体力やソニックウェーブを回復することができ、羽根が手のひらに舞い降りるかのように、静かに地上に着地することができた。
「あなたたちは、そのままK国に行って、ダヨンたちと合流して!」
ユジンはソニックウェーブで飛行船の二人に伝え終えると、まだ朦朧としているヨンウンを自分の前に乗せて、バルキリーを駆って捕らわれのイェソの元へと急いだ。