アルコール依存症 の恐怖 11

アルコール依存症の恐怖11

新たなる生活の始まり

祖母との生活は、
特に問題もなく過ぎていきました。

幼い頃に一緒に暮らしていた頃と変わらぬ祖母は、
積極的に友達を作りはじめ、
自身のコミュニティをどんどん広げていきます。

料理ができない祖母はスーパーで惣菜を買い、
毎日質素なものを食べていたと思われます。

ちなみに私は、
カップヌードルのカレーと白飯で食いつないでいました。

安アパートとはいえ二重生活なので、
家賃の負担も厳しかったのですが、
狭い部屋で祖母と一緒に暮らす心の余裕などありませんでした。

毎晩屋根裏でネズミが走り回り、
容赦なくGも出てきます・・・・・。
正直とんでもないボロアパートでしたが、
以前のストレスが無い分とても幸せでした。

風呂のないアパートでしたので、
休みの日の夕方や、
少し早く店を上れた日は、
祖母を連れて銭湯に通いました。

下町は暮らしやすくて良いです。

近所の人たちが優しくしてくれるので、
貧乏人が安心して暮らせます。

変化の兆し

忙しい割には薄給でしたから、
生活は一向に良くなりませんでしたが、
自分なりに目標を持っていた20代の私は、
毎日が充実していました。

そんなある日、
祖母と仲良くしてくれている近所のおばさんが、
私に話しかけてきたんです。

「フリオくん、もっとおばあちゃんを大切にしないとダメだよ」

「?」

なぜ、そんなことを言われるのかわかりません。

仕事が忙しいことを理由に、
あまり祖母の部屋を訪問しないことを指摘されているのでしょうか・

「あ、はい」
「ありがとうございます」

その場はそのように言うしかありませんでした。

貧乏ながら必死に働いているにもかかわらず、
傷口にナイフを立てられているようで、
少し悲しくなりました。

また別な日には違う方から、

「フリオくん、あまりおばあさんを困らせないでね」

「??」

何を言われているのか皆目検討がつきません。

しかも、私に注意を促すおばさんたちの目が
日増しに厳しくなっていくのです。

まるで罪人を見るような目で私を見るんです。

次第に悪者扱いされていることを、
確信していくようになりました。

どうしてこんなことになってしまったのか・・・・。

しばらくの間、
伯父の面倒をみていた影響で、
私の頭はおかしくなってしまったのでしょうか・・・・。

被害妄想なのでしょうか・・・・。

だんだん私は近所の人と会うのが辛くなり、
なるべく人を避けるようになってしまいました。

祖母は相変わらず楽しそうに過ごしています。

何か祖母に対して嫌な思いをさせていることがあるのなら、
申し訳ないと思うのですが、
全く思い当たる節がないのです。

目の前にいる祖母はテレビをみながら、
楽しそうにケラケラ声をあげて笑っています。

何か私に対して不満があるようには見えません。

面と向かっては言えないような何かを、
私はしてしまったのでしょうか。

給料が安いことが問題なのでしょうか。

仕事ばかりしていないで、
祖母の話し相手をしなければいけなかったのでしょうか。

せっかく好転し始めた私の生活でしたが、
得体の知れない何かが私を狙っているような気持ちになりました。

目に見えないその何かは、
私に直接危害を加えるのではなく、
間接的にわたしの精神を責め続けます。

当時の私は、
周りの全てが私を責めているように感じていました。

目に見えない何かの正体もわからぬまま、
月日は流れていきました。