Kep1erの物語その4

2022年10月1日

バルキリー

K国に向けて飛び続けるユジン達4人を乗せた音速飛行船は、独立解放戦線の音波レーダーに捕捉されないように、ゆっくりと進んでいる。

本来のスピードを発揮できないもどかしさを感じながら、操舵を任されているシャオティンは、上空の澄んだ風で髪をなびかせながら、真剣なまなざしで正面を凝視している。

K国にたどり着くためにはソニックウェーブをキャッチする音波レーダーの真上を、どうしても通らなければならず、音波エネルギーを最小限に抑えるためには、シャオティンのソニックウェーブコントロール能力が不可欠だ。

操舵しながら微妙な音波の流れをコントロールするために、両手で力強く舵を握るシャオティンの横顔kからは汗が滴っている。

ヨンウンは増幅装置の設置と調整がようやく終わったらしく、大の字になってフロアに寝そべっている。天才である彼女にしかわからない、その装置の仕組みは、音速飛行船の能力を高め、大気圏を突き抜けて宇宙を旅するための、宇宙飛行船へのバージョンアップに必要なものだ。

手持ち無沙汰のヒエは、3人に紅茶を淹れて、レモンをスライスしている。

その時、後方を双眼鏡で警戒していたユジンが叫んだ「まずい!見つかった!!」叫び声に重なるように、対空ミサイルの轟音が近づいてくる。

「ごぉーーーーーん」

ヒエは、せっかく用意した紅茶が全てこぼれてしまい、ヨンウンは寝転がったまま端の方に転げてしまった。

シャオティンは出力を上げて次の攻撃を振り切ろうとするが、飛行船は俊敏に動くことが出来ないし、ソニックエネルギーは充填に時間がかかる。

「間に合わないっ!」

と叫ぶシャオティンに

「大丈夫!」

と、ヨンウンが自らが設置した装置のスイッチを押しつつ振り返り、指を逆さにするオリジナルのピースサインで答えた。

音速飛行船のパワーがみるみる増大する。

「これなら行ける!」

ソニックウェーブの流れを調整しながらシャオティンが舵を切る。

飛行船は大きく左側に方向を転換したため、ヒエは拾い集めていたティーカップを再び散乱させてしまった。

油断せずに敵のミサイルを警戒するユジンがみんなに告げる。

「予定を変更します!」

「シャオティン!船を姜将軍の本拠地に向けて!」

ユジンの考えを悟ったシャオティンは更に左に舵を切る。

ヒエのティーカップはまたしても散乱し、半べその彼女は片づけを諦めるしかなかった。

一度敵に見つかてしまったら、逃げることはできない。

それならば敵の重要拠点にに向かい、大切な仲間イェソの救出に向かうことが最善だとユジンは咄嗟に考えたのだ。

しかし大きな的になってしまう飛行船では間違いなく不利である。

「あなたたちはこのままイェソのところまで飛んでちょうだい」

ユジンの言葉を遮ってヨンウンが尋ねる。

「ユジンお姉さんはどうするの?」

「私が敵の攻撃を跳ね返すわ!」

ユジンは履いていたヒールを脱ぎ捨てると、決意した表情で叫んだ。

「スーパーソニック!!」

みるみるユジンの身体は白金の重武装に包まれた。

ユジンは右手を口に当てて空に向かい、指笛を吹いてもう一度叫んだ。

「来い!バルキリー!!」

突然現れた音の粒子は、次第に形を成していき、ペガサスのように羽の生えた戦闘馬になった。

ユジンはバルキリーと呼ばれるる白金の馬に飛び乗り、飛行船から勢いよく飛び出した。

操舵に集中するシャオティンの両脇で、ヒエとヨンウンは、心配そうにユジンの後ろ姿を見守るしかなかった。

sing a song

K国の医療チームの奮闘で、マシロの傷は次第に回復していった。

暴君アンチの狂った刃よってつけられた大きな傷も、最新のソニック医療技術によって本来の美しさを取り戻しつつある。

チェヒョンは医療班の治療をバックアップするように歌を歌った。

城中に響き渡るチェヒョンの歌声は、それを聴く全ての人の心を安らかにする、癒しの効果が絶大だ。

まだ目を覚まさないマシロの耳にもその歌声は届いており、医師の治療に加え内面からの治癒能力を向上させることが可能だ。

同じように戦いによって傷を負ったダヨンとヒカルも、体力回復のためのカプセルの様なソファーに横になりながら、チェヒョンの歌声を聴き、心を安らかに保っている。

ダヨンはユジンたちとの通信が切れた後も、音速飛行船の航路をチェヒョンと共に音波望遠鏡を使って確認していたが、医療班に促され、今は体力を回復すべきと判断し、おとなしくしている。

歌を歌い続けるチェヒョンも、ユジンたちの危険な状況を薄々感じていたため、落ち着いてはいられなかったが、戦闘力の高いダヨンら3人の回復こそが先決だと悟っていた。

「私たちの体制が万全になれば、ユジン姉さんたちを助けに行くことが出来る」

チェヒョンは心の中で呟きながら、歌を歌うことに集中した。

しかし、いくらユジンとシャオティンの戦闘能力が高いとしても、独立解放戦線の攻撃を全て退けることは不可能だ。

はやる気持ちを押さえながら、それでも今は歌うしかなかった。

歌うことこそ今の彼女の最大の戦いだからだ。

響き渡る彼女の独特な歌声は、誰にも真似することが出来ない慈しみに満ち溢れていて、K国城は戦時中とは思えないほど平和な空気に包まれていた。

sense of justice

囚われのイェソの周辺が急にざわめき始めた。

比較的戦闘地域から離れている収容施設なので、普段は戦闘音は聞こえない場所なのだが、急にミサイルやロケット砲の残骸が周辺に降り注いでくる。

ろくに食べ物を口にしない毎日を過ごしてきたイェソは視力も聴力も著しく低下してしまっており、全く状況がつかめない。

もちろんユジンたちのソニックウェーブを感じることも、自らが発することも出来ない状況だった。

「ぎゃぁあああ」所々で監視員たちの悲鳴が聞こえる。

「どうしたの、何が起こったの!」

イェソは不安な気持ちで、生きることを諦めていた少し前の気持ちとはうって変わり、今の危険な状況を本能的に察知したからなのか、

「ここから逃げなければ」

と脱出方法を探し始めた。

イェソの諦めかけた気持ちを急激に変化させたのは本能的な生命の反射だけではなく、同じように牢獄に閉じ込められている罪のない人々の命を救わなければならないという、純粋な正義の使命感に火が付いたからだ。

「私はいい、でもこの人たちだけでも助けなくては」

しかし、今のイエソには十分な体力が残っていない。

ソニックウェーブも使うことが出来ない。

彼女は自分の非力さに涙を浮かべながら、牢獄の扉を素手で叩き続けた。

「もう、もう誰にも傷ついてもらいたくない!」

そう言いながら鉄の扉を打ち続けたが、鈍い音が虚しく反響するだけで、暗い牢獄は崩壊の時をただ待つしかなかった。

一方、敵の防空攻撃から音速飛行船を守るために空中に躍り出たユジンは、大空を四方八方に跳び続けながら次々と長い槍でミサイルを破壊していく。

その姿は戦いの女神そのものだ。

無数に発射される兵力も彼女のソニックランスの前では粉々に砕け散ってしまう。

ソニックランスと呼ばれる長い槍も、バルキリー同様ユジンがソニックウェーブの粒子で作った武器で、前に立ちはだかる敵を次々となぎ倒していく戦闘スタイルは痛快そのものだ。

「しまった!!」

ユジンの攻撃が届かず大きな弧を描いた一機のミサイルが飛行艇を目がけて飛んで行く。

前面からの攻撃を防ぐことに手いっぱいのユジンは後方に反れたミサイルを負うことが出来ない。

ソニックランスの攻撃範囲では早いスピードで彼女から遠のいていくミサイルを止めることは不可能だ。

シャオティンは必死に速度を上げるがもうすぐミサイルに追い付かれてしまう。

その状況をみはからってか、ヨンウンが自分の目の前にある増幅装置のスイッチを切ってしまう。

「ヨンウン何をしているの!」

ヒエが悲鳴に近い声で叫ぶのをよそに、ヨンウンは黒ぶちの眼鏡をはずし、さっきとは別人のような眼差しで2人を睨んだ。

to be continued